2023.04.03 313 views
「スキップとローファー」タイトル考
過疎地から東京の進学校に入学した美津未が巻き起こすコメディ漫画「スキップとローファー」。高校生たちの心の機微を丁寧に紡ぐストーリーテリングに絶賛ドはまり中です。
さてこのタイトル、初見の時から印象深くて。その秘密は「違和感のある語順と接続詞」にあるのでは?という考察です。
整合性をとるなら「ローファーでスキップ」が妥当でしょうか。「名詞+動(詞にもなる)名詞」の順で並べれば、文は落ち着きます。ただこれだと若干「学園ギャグ4コマ」的な脳天気さやセセこましさが滲む。または後ろの「スキップ」にひっぱられ、カーリング部が舞台のスポ根ものと思われるかも知れない(それはない)。
「ローファー」を後ろに置くことで「高校生活が舞台」というテーマの広さが伝わります。一方「スキップ」は前に出しつつ「と」で並列に接続し、きっぱりと名詞化。これで「スキップ」が、ローファーを履いていようといまいとする、あるいはしない、「ただそこにある事象」に純化しました。それは彼女らの「スキップしてない状態」=「平穏と逡巡の毎日」をも際立たせているように思うのです。
また「と」には「二物衝撃」への配慮も感じます。これは「2つの事物をぶつけて情趣を生む」という俳句の技法で、言葉同士が「ほどよい距離」にある状態が良しとされています。スキップは「動き」、ローファーは「静物」と対比を感じさせる一方で、どちらも「足回り」の名詞でもあり、総じてやや近い。それを「と」の持つ素っ気なさでほどよく引き離したのかなと。
普通の高校生の感情を尋常じゃなく仔細に描く「スキップとローファー」。普通だけど普通じゃないそのタイトルは「名は体を表す」を実践しながらも「違和感」で人の心を捉える、「この漫画家にしてこのタイトル有り」と唸らせるクリエイティブです。
WRITTEN BY ヨコヤマ
コピーライターです。事象を俯瞰で見つめつつも、血の通った言葉を紡ぎたい。小学生の娘がクラス朝礼で「コピーライターになりたい」と言ったそう。誉れです。