WEEKLY (THINK)

peelの週報。
スタッフの日常×クリエイティブシンキング

ILLUSTRATED BYたていし

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背後のプレッシャー

電動自転車を買いました。脱穀した燕麦の色に似ています。どこまでも遠くへ行けそうな軽い走りで。暇さえあれば乗り回して、知らない町へと出かけています。道すがら、気になるお店に立ち寄るのも楽しみになっていて。先日は小ぢんまりした間口のプリン専門店を見つけ、思わず停車。「これは買わねば」。妙な使命感が、私の両手にギュッとブレーキレーバーを握らせます。

 

ショーケースを前に目移りしていると、店員さんがやさしく声をかけてくれました。
「お客さま。こちらが人気の商品で、あちらがオススメの商品です」
「へぇ、そうなんですか。ありがとうございます」
そんなお礼を言いながら、私の中でゆっくりと言葉の咀嚼が始まりました。人気の商品とオススメの商品、これは一体どういう意味を含んだ語りなのかなと。人気の商品は、好評ではあるけれども、お店のイチオシ商品ではない?オススメの商品は、お店の推しだけれども、いちばんの人気商品ではない?思考回路がグルグルします。「こちらが当店のオススメで、いちばんの人気商品です」という流れなら、迷うことなくその1個を選べたのに。

 

しかし待てよ。ひょっとするとこれは、巧妙なセールストークなのかもです。「人気」と「オススメ」という2つのキラーワードで、どっちものプリンを売る戦略だとしたら。それに釣られた私が両方のプリンを買ってしまう様子に、お店の奥でモニタリングしている敏腕プランナーがシメシメとほくそ笑むのでしょう。いやいや、私も業界歴云十年のC級コピーライター。そんな誘い文句に、素直に乗っかるはずもなく。目の前に並ぶ7種類のプリンの中から、自分好みの1個を選ばせてもらいますよ。「モニタリング中のプランナーよ、苦虫を噛みつぶしなさい!」

 

そんなことを思いながら風味の説明文を読んでいると、狭い店舗の中で、私の背後に一人のお客さんが並びました。実は、こういうプレッシャーにすごく弱いわけで。次の人が待っているとなると、焦ってしまうわけで。やや早口に「人気とオススメのプリンを1個ずつください!」と。思いとは裏腹の言葉で、店員さんに微笑みかけるという結末に。敏腕プランナーの小さなガッツポーズとともに、厨房のパティシエさんたちがハイタッチする姿が脳裏に浮かびました。

 

帰り道。電動自転車の前カゴの中で、ガラス製のプリンカップが鈍い音で響き合っています。敗北感です。あんなに軽かった走りが、やや重です。

 

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WRITTEN BY kAwAucHi

タバコは3歳でやめました。文章を書いたり、企画を考えたり、進行管理をしたり。職種がふらついています。

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