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カンティレバーの感覚
カンティレバーという言葉をご存じでしょうか。カンティレバー(Cantilever、片持ち梁)とは、支点から片側だけを固定し、もう一方を空中に張り出して支える構造のことです。身近な例でいえば、水泳プールの飛び込み板がその代表でしょう。
AIによると、その語源はラテン語で「角・端」を意味する cantus と、「持ち上げる」を意味する levare に由来するとされています。17世紀には “cantlapper” とも呼ばれていた記録があるそうです。
構造技術として確立したのは19世紀後半。1866年、ドイツの技術者 ハインリッヒ・ゲルバー が特許を取得し、翌1867年には近代的なカンティレバー橋が完成しました。橋梁技術の発展とともに、この言葉はより専門的な意味を帯びて広まっていきます。
そして1920年代。この構造は家具デザインにも現れます。いわゆる「カンティレバーチェア」です。なかでも有名なのが、マルセル・ブロイヤー によるチェスカチェアでしょう。
私が物心ついた頃、この椅子はどこか“レトロな椅子”という印象しかありませんでした。しかし学生時代にデザイン史を学び、その構造と思想を知ったとき、ようやくその凄さに気づいたのです。
脚が後ろにない椅子。それでも人の体重を受け止め、しなやかに支える構造。左右非対称でありながら、見事なバランスを成立させている。その感覚は、バウハウス や ロシア構成主義 のグラフィック表現ともどこか響き合っているように思えます。
当時の私は、その大胆な構成美に強く心をつかまれました。
ある意味で、今の仕事に就く原点のひとつだったのかもしれません。
片側だけで支える構造。それでも成立するバランス。不思議なことに、デザインや仕事の世界にも、どこか似た感覚があるような気がします。
だからでしょうか。「カンティレバー」という言葉を耳にすると、今でも少しだけ胸が高鳴るのです。
WRITTEN BY citrus002
入社○十年のアートディレクター。マックス・ビル、オトル・アイヒャー、ヨゼフ・ミューラー=ブロックマン、エミール・ルーダー、アルミン・ホフマン、カール・ゲルストナー、リヒャルト・パウル・ローゼ、マックス・フーバーが私のアイドルです。