2023.09.18 171 views
1000円のお買い物
たくさんの人が行き交う阿倍野橋歩道橋での出来事。
「すみません」
東南アジア系の小柄な女性に声をかけられた。道でも尋ねられるのかと思い立ち止まった。すると彼女は無言のまま文字が書かれた手のひらサイズの用紙を私に見せた。
「私は留学生です。お金がありません。お菓子を買ってくれませんか。」
黒マジックで縦書きに書かれたその文章は、漢字交じりで勤勉さが伝わる。まだ話すのは苦手なのかな、コロナで色々あったのかなと「オーケー、ハウマッチ?」と私は聞き返した。
彼女は、輸入系のシャレたお菓子を手さげ鞄から出しながら「チョコが500円、クッキーと2つで1000円」とカタコトで説明してみせた。値段の割に量は少ない。そして今財布には千円札しかない。寄付同然の行いにお釣りをもらうのも気が引ける、、と思った私は両方くださいと言ってしまった。
お菓子を受け取ると、彼女は笑顔で「良いことがありますように」とぺこりと頭を下げた。帰りの電車に揺られながら恐る恐るチョコレートを一口かじる。思いのほか美味しかった。
この一連の出来事を家族に話すと、騙されている、普通怖くて食べれない、などと批判が相次いだが、確かに私はなぜ断らなかったのだろう。なぜ買ってしまったのだろう。頭によぎる詐欺の文字。。いやいやそんなはずはない。きっとこれは
応援感情をくすぐる留学生ブランドと
心動かすド直球なコピーと
人柄がにじみ出るフォントデザインと
訛りで安心させるジャパネットたかた方式と
ついつい手が出るまとめ売り
という巧妙な合わせ技で王道販促の術中にはまっているだけだ。そして人助けをしたという誇らしさと美味しいお菓子が千円で手に入ったのだから、満足度の高い買い物ができてむしろ良かったのだ。
うん、とゆーことは、私は騙されてはいないのだ。たぶん。
WRITTEN BY AKIHATA
大阪の南の方に住んでいるグラフィックデザイナーです。