WEEKLY (THINK)

peelの週報。
スタッフの日常×クリエイティブシンキング

ILLUSTRATED BYkAwAucHi

22 views

雨に思う

私の右側に雨が降っている。窓ガラスにしがみついていた幾つかの雨粒が、自分の重さに耐えきれずに流れ落ちていく。まるで生き物のように、ガラス面をうろうろしながら、あたりの雨粒を巻き込みながら。それを目で追いかけて、ズボラな私は思う。床を這うロボット掃除機のように、窓の汚れを一掃してくれる縦横無尽な雨粒はないものかと。

 

通勤していた頃は雨の日が億劫だった。湿気で髪がうねり、ヘアスタイルがモワモワになる。着る服にも、履く靴にも、提げるバッグにも、気遣いが必要になってくる。長傘1本分、荷物が増える。バスは遅れる、バスは混む。地下鉄の車内では、誰かの傘にまとわった雨の滴が私を濡らす。大雨になろうものなら足元はぐしょぐしょで、通勤だけで一仕事を終えたような疲労感が今日を萎えさせる。そして偏頭痛が始まる。あまりいいことがない。雨の朝は、会社に行かなくてもいいような然るべき理由を真剣に考えたものだ。しかし、休んで滞った仕事は自分自身に跳ね返る。雨に耐えて出勤するか、サボった仕事の巻き返しで先々に疲労するか。さぁどっち。迷いはするものの、答えはいつも正しく決まっている。

 

リモートワークになってからは、空模様を気にせずに朝を迎えているけれど。仕事用のデスクを窓際に置いているものだから、雨の日の仕事時間は、私の右側にずっと雨の音がある。目を瞑ってそれを聞き入る。なんだろう、この和みは。ストレスの雨が、いまでは癒しの雨だ。ある一定の音で規則的なリズムを刻み続ける雨の音。しかし耳を凝らせば、その中に潜むちょっと変わった響きや異なるリズムがあざやかに聞こえてくる。音楽でいうところの、対旋律のようなものだろうか。空から素直に降りそそがずに、樹木や外壁と擦れ合ったり、どこかで小休止していた雨粒が雨垂れになったり。シャッターを打つ音、ウッドデッキを打つ音、ポリカ屋根を打つ音、多様な音階も混ざり合う。それらが主旋律とは別の調子を生み出しながら、今日の雨の音を深めている。

 

人にも、デザインにも、書きものにも、主旋律と対旋律があるように思う。そしてこの対旋律こそが、らしさとか趣を醸し出す。正し過ぎず、美し過ぎず、まとまり過ぎず。不規則で、不可解で、不整合で。ゆがみ、かすれ、ひずみ、にじみ、ゆらぐもの。それでいて主旋律の魅力を削ぐことのない対旋律が、そのものの色気や可愛げ、味わい深さの正体なのではないだろうか。

SHARE :

kAwAucHiのアイコン

WRITTEN BY kAwAucHi

タバコは3歳でやめました。文章を書いたり、企画を考えたり、進行管理をしたり。職種がふらついています。

WEEKLY (THINK)