2023.10.30 279 views
これはビーグルです
いつの頃からだろう、絵がヘタな人を「画伯」と呼び始めたのは。そうなれば、稚拙な文章を書く人は文豪で、バカ舌の人は美食家で、音痴な人はグレイトシンガーということになる。揶揄がすごいけれど、こういうの考えていくの、わりと好き。
そんな私は少々「画伯」で。小学2年の写生大会をきっかけに、自分は絵が苦手なのだと気づく。あのとき目の前に広がっていた複雑な造船所の景色を、クラスのみんなは躊躇なく描いていったのに。私ときたら、クレーンや巨大船の輪郭をちまちまと描いては消し、描いては消し。思うように写せずにいた。途中からイヤになって、鉛筆の芯をワザと折ってみたり、濁ってもいない筆洗バケツの水を何度も替えに行ったり。のらりくらりしながら、最後は巨大コンテナ船の真っ赤なバルバスバウだけを、ただそれだけを画用紙いっぱいに描いたように記憶している。
今回のタイトル画『これはビーグルです』は、お察しのとおり私が描いた。実家の愛犬だけれど、はたしてこれがスヌーピーと同じ犬種に見えているだろうか。おかっぱ頭と車両のような胴体。可愛げを出そうと尾尻を丸めてみたところで、愛犬とは別の生き物に仕上がっている。写実には、ほど遠い。
だから私は言葉を探す。うちのビーグルがどれだけ逞しい骨格で、どれだけセクシーなおすわりポーズだったかを、あなたに伝えるために。
どんな言葉なら、あなたの「わかる」につながるだろう。どんな言葉を重ねれば、あなたの「見える」に届くだろう。描けない私は、いつも言葉を探している。言葉で描写して伝えようとしている。この習癖がいまの「書く」という仕事の鍛錬になっているのなら、私の画伯っぷりは神の恵みなのかもしれない。
できないことを補うために、別の何かが強く伸びようとする。それはもう、誰にでもあることで。
WRITTEN BY kAwAucHi
タバコは3歳でやめました。文章を書いたり、企画を考えたり、進行管理をしたり。職種がふらついています。